created : 2003.3.17
かやくうどん小を頂き、おばちゃんに最後のはんこ、88番目のはんこを押して貰った。巡礼を達成したことで、僕は興奮気味だった。他に客もいないので、おばちゃんに花畑を開業した経緯など色々と質問した。1日二本しかないバスで来たと話すと、当然どうやって帰るんな？と聞かれる。東側の山を越えて、綾上町営バスの柏原口バス停まで歩くつもりだと説明する。うどん職人のおっちゃんは呆れたような顔をしていたが、それやったら1時間ちょっとで着くやろう、と予想してくれる。やはりジモッティだ、歩いたことあるみたい。
お話しているうちに、次のうどんが茹で上がった。しょうゆ小をお代わりしてから、花畑を辞去する。時刻はまだ11時40分頃、バスは13時35分発なので充分間に合う筈だ
いやあ、柏原口ルートを実践されたんですか。私はやるんだったら山を下る反対側のルートかなって思ってました。
国道438号を越え、土器川を渡り、いよいよ九十九折れの道を登り出す。舗装が途切れたところで、民家の敷地に迷い込む。一体こいつは何しょんな、と不審そうなおばちゃんに道を尋ねる。教えられた通りに進路を修正すると、次第に本格的な山道になってくる。倒れた丸太を跨ぎ、草をかき分け、黙々と登り続ける。
葛の花、踏みしだかれて色あたらし
この山道を行きし人あり
一体何処まで登るのだろうと不安になったところで、再び舗装道路に出る。どうやら分水嶺まで来たようだ。しかし、ここを左に曲ったのが最初の間違いだった。柏原渓谷へ下りるつもりで進むうち、道は人気の無い工場の敷地に入って行く。野良犬だか飼い犬だか、良く分からない犬が二匹出て来て吠えられる。道はそこで行き止まりだった。
もと来た道を戻っていると、郵便屋さんのバイクが向うからやって来た。地獄で仏とはこのことである。教えを乞うて、再び進路を修正する。先程間違った地点を過ぎて、ようやく左方向が綾上方面という標識に出会う。ホッと安心してその道を進む。しかし、また道が双方向に分かれていて、ここで二度目のミステーク。右へ曲って随分歩いたところで、林道塩江琴南線という標識を見つける。ゲッ！これ塩江への道だ。北に歩いているつもりが、東に進んでたんだ。
二度も道を間違え、もう時間が無い。琴南に戻るという選択肢もあったが、ええい、いちかばちかじゃ。行ってしまえー、ということで山道を転げるように走り下りる。後10分、後5分、なんとか間に合うかと思えた瞬間、約百メートル前方に走り去って行くタウンエースの後部が見えた。茫然と立ちつくし、見送るしかなかった。
人も馬も、道ゆきつかれ死にゝけり
旅寝かさなるほどの、かそけさ
最後の最後までお疲れ様です。地図はお持ちじゃなかったんですか？まさか全店制覇だけなんてことは…。あの巻頭の地図、よく出来てますけど意外にいい加減ですのでお気をつけ下さい。
次のバスは３時間後である。そんなもの待っていたら、岡山でのオペラはどうなる？ここに進退は窮まってしまった。しかし、この窮地を何とか打開せねばならぬ。意を決して、ヒッチハイクを試みる。幸運なことに、手を上げた二台目で車が止まってくれた。丸亀の自宅まで戻られるという初老のご夫婦だった。無理なお願いを快諾して頂く。
後部座席に乗り込み、実は大阪から来て、うどん巡礼を達成したところです、と話す。琴南からここまで歩いてきたと言うと、あの道歩いて来たんか？と、さすがに呆れていた。ご夫婦は美霞洞温泉への一泊旅行に出かけ、蕎麦を食べたり、お土産を買ったりしながら帰宅される途中だった。ご主人が、そういえば谷川米穀店の前を通るとき、また行列してるなあと話していたが、おまえおったんやろう？と聞かれる。まさにその時間いました、とお答えする。奥さんから、88軒回ってどこが美味しかったか、とのお尋ねがあったので、池上と明水亭を推薦しておく。
という訳で、うどんの四方山話に花が咲く。長田の交差点を通るときに、左へ行けば山越ですねと言うと、さすがに歩いて行くと道を覚えるんやなあ、と感心して頂く。田村の前を通るときは、わしは田村うまいと思わんけどなあ、とおっしゃるので、僕も伸びるタイプの麺が好きですと答えると、おお、おまえ分ってるなあ、と喜んで頂く。今は、しょうゆうどんを持てはやすけど、昔は飯野屋の肉うどんがご馳走やったんや、とおっしゃられ、なるほどと納得する。香川には、うどん嫌いな人って、いないんですか？と質問すると、こっちでは子供の頃からうどんで、法事にもうどんやからねえ、と奥さんに答えて頂く。
ＪＲの坂出駅まで送って頂き、お名前とご住所をお尋ねしてお別れする際に、ご主人がこれ持って行けと、袋に入れた蜜柑を下さった。何故車で送ってもらった上に、お土産まで頂けるのか良く分らなかったが、有難く頂戴する。考えてみれば、この巡礼中三回車に乗せてもらい、三回ともうどん話で盛り上がった。
歩いての巡礼達成は、讃岐うどんを愛する皆様のお陰です。全てのうどん関係者に感謝！
本当にお疲れ様でした。私はいつも歩いて回っているように思われていますけど、最近は駅周辺くらいしか行っていないので、いろいろと参考になります。最後で好い人に巡り合えて良かったですね。うどん88ケ所巡礼というイベント、それはそれで面白いんですが、その縛りなくのんびりとお気に入りの所を回って下さいませ。